新喜皮革から学ぶコードバン ~Leather Festival 2021~

この記事では除毛の済んでいない馬の原皮の写真がございます。苦手な方はお控えください。

目次

革の祭典へ

日本の皮革産業として、著名な地である姫路。

ここでは毎年、レザーフェティバルというイベントが催されている。

出典:https://shinki-hikaku.jp/blog

皮革製品を扱うメーカーが出店したり、タンナーが革を販売、今年は靴磨き職人の西岡ぺこさんも出展されていた。

そんな革のお祭りの中で、毎年人気のツアーがある。

それが、新喜皮革の工場見学だ。

新喜皮革は、日本を代表するコードバンのタンナー。

創業は1951年、70年以上に渡って馬革に情熱を注いでいる。

今回も全日程満員ということなので、人気の高さが伺われる。

我々が普段から目にするコードバン製品は、どのようにできているのかを覗いてきた。

コードバンができるまでを見学

新喜皮革が行うのは、ヨーロッパから届いた馬の原皮を革製品として使える形にすること。

原皮の状態と最終工程のグレージング後の姿は、こんなにも違う。

左:原皮
右:グレージング後のコードバン

現在はブラックバスや近代マグロの革も扱っているようだが、メインで使用するのは馬革。

ここに新喜皮革のこだわりがある。

高度経済成長期には、革は作れば売れるような時代だった。

当時は牛革の方が、供給量も多く、市場には多く出回っていた。

手間はかかるし、効率が悪い馬革。

商品としては、扱うところは少なかったという。

しかし、その魅力を多くの人に知ってもらいたいことから、新喜皮革は馬革にこだわり続けて、美しいコードバンが生まれている。

原皮はヨーロッパ産がメイン

工場内に入ると、鼻をさす強烈な匂いがする。

これはなめし剤とかの匂いなのかと思っていたら、腐敗の臭い?だそうだ。

なめしが行われる前の原皮は毛も付いていて、動物であったことをより実感させられる。

皮革製品で使用される革は、食用肉の副産物として採取され、原皮のほとんどがヨーロッパから輸入しているものだ。

輸入された馬革を使用する理由は、ヨーロッパの食文化と馬のサイズにあるようだ。

ヨーロッパから輸入された馬革を使用する理由
  • 馬肉を食する文化がある(南フランスなど)
  • 面積が大きい

なめし

最初に入った工場では原皮が置かれていたり、なめし剤が貯められていた。

なめし液

革のなめし方法で代表的な方法はクロムなめしタンニンなめし

前者は変わらない良さがあり、後者は変わっていく良さがあると説明を受ける。

確かに、タンニンなめしで仕上げられた生成りのヌメ革が、あめ色に変わっていく過程は革製品好きにはたまらない現象だ。

コードバンはタンニンなめしで仕上げられ、そのなめし液にはアカシア(ミモザ)のエキスなどを継ぎ足しで使用しているようだ。

なめしの違い
クロムなめしタンニンなめし
経年変化しにくいしやすい
なめす時間

※コードバンはタンニンなめし

ちなみにコードバンにクロムなめしをかけない理由は、せっかくの緻密な繊維が崩れてしまう可能性があるため。

タンニンなめしはじっくり時間をかけてなめしていく。

一方、クロムなめしはドラムのようなものの中に入れて回転させることで速やかになめされる。

この方法ではどうしても負荷がかかるため、コードバンには行なっていない。

また、過去の記事では皮革ハンドブックを参考になめしの違いによる特性の変化もまとめているので、そちらも合わせて記載。

なめしの種類熱縮温度℃耐熱性染色性弾力性可塑性充填効果吸水性色調
クロム77-120×淡緑味青
タンニン70-89×黄〜赤味茶
合成鞣剤63-88×〜△△〜○△〜○黄味茶
アルデヒド63-85△〜○××〜△白〜黄
ジルコニウム75-97
油鞣し50-65×××
◎:非常に優れている ○:優れている △:普通 ×:劣っている
※可塑性:変形すると元に戻らない性質
参照:日本皮革技術協会編(2005年)『皮革ハンドブック』 樹芸書房(P24 表1-7)
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コードバンは削り出して生まれる

場所を変えて馬革がどのように構成されているかを紹介してもらう。

上記の図のように、馬革は3分割される(牛革は2分割)。

馬の革はほとんどの場所で銀面(表皮側)と床面(内臓側)の2層で構成される。

しかし、お尻に限っては、その間にコードバン層というものが存在する。

新喜皮革では、馬革を作り上げる際に、コードバンの取れるお尻周りとそうでない場所を切り離す。

これはコードバンとホースハイドで、生産工程が異なるためだ。

上の乗っているメガネ状の革がコードバン

ではこのコードバン独自の工程とはどんなものがあるのか?

それは、革の宝石と言われる由縁でもある削り出すという作業にある。

前述の通り、コードバン層とは銀面と床面の間に挟まれている層だ。

まずは、床面側から少しづつ削り出して、コードバン層を露出させる。

緻密な繊維層で、手触りもつるっとしている。

また、コードバンは同じ馬でも左右で大きさも厚みも異なる。

そのために、革として使用するためには厚みも均一にしなければならない。

そこで、床面側からコードバン層が見えるまで削り出した後には、銀面側を削ることで厚み整えていく。

銀面側を完全に削り切るのではなく、あくまで厚みを整えることを目的に削り出す。

したがって、コードバンは1層構造であるとよく言われるが、銀面が付いているものがほとんどなのだ。

完成形のイメージはこのようになっている。

ちなみにコードバン層を削り出すにあたって、床面側ではなく銀面側から削り出すことはしないのか?

という質問に対しては、床面側から削り出す理由は、銀面側を残した方が強度が保てるからと返答されていた。

削りすぎてしまえば無くなってしまうし、削りが足りなければコードバン層は出てこない。

職人による緻密な作業でコードバンは発掘される。

まさに革の宝石だ。

グレージングで艶を出す

工場見学の最後は、グレージングという工程。

ガラスのローラーで強く摩擦をかけることで、透明感のある光沢を出す作業になる。

グレージング前の革はこのような状態だ。

そして、職人さんによるグレージング後は、このような光沢を帯びる。

グレージング後

同じものに思えないようなBefore Afterの変化。

手触りも滑らかで、普段手にしているコードバンに変わりなかった。

革製品は大切に使わなければならない

今回の工場見学を経験して、「革」というのは動物からいただいている素材であること、多くの手間や時間がかけれていることを痛感。

「革製品は大切に扱わなければならない」

頭の中では分かっていたつもりでも、このような現場での作業を覗かせてもらうと、より一層その想いは強くなった。

コードバンをはじめとする革の魅力、できるまでの苦労を学ぶことのできる貴重な経験ができた。

次回は来年になるだろうが、革製品に少しでも関心のある方は一度参加してみるのはいかがだろうか?

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この記事を書いた人

1992年11月生まれ。
190cmの大男の細かい趣味のブログ。
2020年より「こだラボ」を執筆し、2021年2月に「Lab.」に名称変更。
趣味は靴磨き・旅行・読書・ゲーム・ボクシング観戦。

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