皮革ハンドブックを読み解く③ 〜革靴に使う革の品質と向き〜

目次

適材適所

現代サッカーには様々な戦略がある。

相手チームからゴールを取るという目的は同じでも、ボールを常に保持して徐々に相手ゴールを近づいたり、一瞬で相手ゴールまでの距離を縮めるように縦に速い方法がある。

こうした戦略を形にするために、足の速い人はここに、クリエイティブなアイデアを持てる人はここに、と言ったような適材適所が求められる。

そして、我々が普段履いている革靴も複数のパーツでできているが、それぞれ使われている革の品質・向きと言ったものは緻密に計算されているようだ。

まさに、各部位への革の適材適所を行うことで一足が仕上がる。

今回は、「皮革ハンドブックを読み解く」のシリーズ3本目の記事として、革靴の製法と特性について触れていこうと思う。

牛革の部位の特徴

皮革製品として、しばしば用いられる牛革だが、生存時の部位別で銀面模様と繊維の緻密度が異なる。

したがって、どのパーツの革を使うかで弾力性や緻密度は異なる。

本書では牛革の各部位における品質の目安を下記のように示している。

それぞれの部位の特徴についても併せて触れておく。

部位別の特徴

  • 緻密な繊維で皺の発生が少ない
  • 伸びや変形・ヘタリが少ない
  • 耐久性が優れる

  • 繊維がややルーズ
  • 銀面のきめ細かさは尻部分に劣らない

首・腹

  • 繊維の絡み合いは緩い
  • 伸びやすい
  • 銀面も粗い

革の方向性

革には繊維の方向性があることも触れられている。

繊維の方向性を理解することで何がわかるのか?

それは、革の伸びやすさを把握する上で必要になるようだ。

本書ではこのように紹介されている。

この方向性だけを見てみても何が何だかよく分からない。

本書の解説によると、この矢印の方向には伸びにくいようだ。

逆にこの矢印に対して、垂直に交わるところは伸びやすいとも記されている。

伸びやすい方向を図示するとこのようになる。

また、この方向性は一定ではなく、強い場所と弱い場所がある。

特に差が少ないところとしては、尻部分であり、裁断時に方向性を無視してもよい。

一方で、中央から肩にかけては、最も方向性が強い場所であり、裁断方向を厳格に守る必要がある。

革の方向性
  • 革の伸びやすさは方向性に左右される
  • 場所により方向性の強さは異なる
  • 尻部分は差が少ない
  • 中央から肩にかけては方向性が強い

革靴のパーツに使われる品質等級

ここまでの紹介で革には部位ごとの特徴があることを記載してきた。

繊維の緻密さや伸びやすさも異なることから、どのパーツをどこに使って革製品とするのかも大事な点になるだろう。

では実際に、革靴にはどのようにあてがわれているのか?

革靴ごとのパーツでは以下のようになっているようだ。

この図では、前述の品質の目安と関連させたものになる。

履きじわの入る箇所には1級のもの、次いでつま先や内側に2級のものが推奨されている。

また、「革の方向性」も考慮して、靴全体の縦方向(踵からつま先)には伸びにくいように裁断しているようだ。

なぜ縦方向に伸びにくい組み合わせを取るのかと言うと、製造時の釣り込み作業で成形しやすく、着用時に靴が馴染みやすくなるためとされている。

釣り込み作業とは、縫い合わせた甲革を靴形に密着させて、底部と接合させる方法。

革を靴形に沿った立体的に成形するにあたり、強く引っ張ってくぎで止める作業を繰り返すことになる。

この時に、強い力で引き込む釣り込み機械では、甲革を余計に引き込んでしまうと伸ばされすぎた甲革の銀面模様が崩れてしまう。

このような背景から、縦方向には伸びにくいように革を組み合わせているようだ。

加えて、着用時の問題として横方向(ボール部分)には伸びにくい方向を向けない方が良いとされている。

着用時に負荷がかかるせいか、甲部の足なじみが悪くなることもあるそうだ。

終わりに

今回は皮革ハンドブックで取り上げられている「革製品の製法と特性 – 靴」のパートを取り上げた。

普段、快適に履けている革靴は、作り手の創意工夫があってなし得てるものだと実感。

一見では区別のできない、革の方向性を考慮した裁断はまさに職人の技だろう。

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この記事を書いた人

1992年11月生まれ。
190cmの大男の細かい趣味のブログ。
2020年より「こだラボ」を執筆し、2021年2月に「Lab.」に名称変更。
趣味は靴磨き・旅行・読書・ゲーム・ボクシング観戦。

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