結局どれが良い?
靴磨きをしよう。
そう思い立った時に、ネットで調べて見ると、とりあえず乳化性クリームを選んでおけば心配ないと知る。
同時に、より一層光沢をもたらす油性クリームという存在に気づく。
シンプルに靴を綺麗にするだけなら、どのクリームでも問題ないと思う。
しかし、これだけの種類が展開されている中で、それぞれにどんな違いがあるのか?
こうした比較検証はあまり見たことがない。
いわゆる乳化性、油性といったクリームの「ジャンル」の違いではなく、各メーカーの発売しているシューケア用品そのものを比較していきたいと思う。
革靴用クリームの分類
革靴用の靴クリームは大きく3つのジャンルに分類される。
- デリケートクリーム
- 乳化性クリーム
- 油性クリーム
それぞれのクリームの特徴は、水分やロウの含有量が異なる。
デリケートクリームは「水分」が多く、「ろう」が少ない。
一方、油性クリームはその逆になる。
乳化性クリームはその中間の位置づけとなる。
徹底検証
今回の検証ではこれらの項目を見ていく。
- 耐水性
- コスパ
- 伸び
- 匂い
そして、比較するクリームはこれらのものを用いる。
いずれもシューケア用品を代表する10種のクリームたちだ。
デリケートクリーム
- SAPHIR Noir Nappa
- M.MOWBRAY デリケートクリーム
乳化性クリーム
- SAPHIR ビーズワックスファインクリーム
- Boot Black シュークリーム
- BriftH THE CREAM
- Tapir レーダーフレーゲクリーム
- Shoestripes Rice Cream
- Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス
油性クリーム
- SAPHIR Noir CREME1925
- Boot Black アーティストパレット
耐水性
最初に行うのは、耐水性の検証。
ヌメ革のシートを用いて実施する。
- ヌメ革のシートに各クリームを同量づつ塗布
- スポイトで一定量(0.5ml)の水滴を垂らす
- 浸透するまでの時間を計測
この方法で、水が染み込むまでが遅いものが、耐水性に優れていると評価する。
また、各クリームの塗布量は、この容器にすり切り一杯とした。
実際にクリームを塗布するとこのようになる。
時間毎の記録は、最初の1時間は10分毎に記録。
以降は不定期に時間感覚をあけて判定した。
次項の「結果」では、変化の見られたタイミングの画像を交えて記載していく。
結果
1分後
塗布直後から、デリケートクリームは2種類とも水の浸透が始まる。
10分後
Tapirのクリームでも浸透が始まる。
手触りではかなり分厚く層だが、意外にも浸透するのは速い。
また、BriftHのTHE CREAM、Boot Black シュークリームも浸透が始まってきた。
30分後
デリケートクリーム、Tapir、Boot Black シュークリームは浸透。
BriftHのTHE CREAMも時間の問題か。
予想外だったのは、Rice Cream に変化がなかったこと。
この中で最もテクスチャーが液体に近いクリームで、水を垂らした段階で広く広がったことからも浸透はもっと早く進むとも思っていた。
1時間30分後
このあたりまでくると結果が綺麗に分かれてくる。
浸透しないものは、最初から水滴のサイズが一切変わっていない。
3時間後
油性クリーム2種とSAPHIR ビーズワックスファインクリーム、Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックスは全く水を浸透させなかった。
逆にそれ以外のクリームでは浸透する結果となった。
15時間後
ついにCollonil 1909 シュプリームクリームがリタイア。
全く水を通すことがなかったのは3種のクリームとなった。
クリーム名 | 水の消失時間 |
---|---|
SAPHIR Noir CREME1925 | しない |
Boot Black アーティストパレット | しない |
SAPHIR ビーズワックスファインクリーム | しない |
Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス | 15時間 |
Shoestripes Rice Cream | 3時間 |
BriftH THE CREAM | 1.5時間 |
Boot Black シュークリーム | 50分 |
Tapir レーダーフレーゲクリーム | 20分 |
SAPHIR Noir Nappa | 1分 |
M.MOWBRAY デリケートクリーム | 1分 |
この結果から、耐水性が優れている3つのクリームを判定することができた。
梅雨の時期や雨の日に履く革靴は、どうしても濡れてしまう。
雨の日の用の靴は、なるべく耐水性のあるクリームでケアしたいものだ。
コスパ
靴クリームも消耗品であることからも、コスパも大事な観点。
今回使用した各クリームの1mlあたりの値段を見てみると、このような結果になった。
クリーム名 | 1ml あたりの価格 |
---|---|
SAPHIR Noir Nappa | 32.2円 |
M.MOWBRAY デリケートクリーム | 18.3円 |
SAPHIR ビーズワックスファインクリーム | 22円 |
Boot Black シュークリーム | 20円 |
BriftH THE CREAM | 44円 |
Tapir レーダーフレーゲクリーム | 23.4円 |
Shoestripes Rice Cream | 14.6円 |
Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス | 30.8円 |
SAPHIR Noir CREME1925 | 32.2円 |
Boot Black アーティストパレット | 62.8円 |
コスパの観点でみると、最も安いのは Shoestripes Rice Cream。
もちろんクリーム毎に適正な使用量などは異なるので一概には言えないが、一つの目安にしていただきたい。
ちなみに Shoestripes Rice Cream は少量でも伸びが良いため、靴磨き1回あたりの使用量も少ない。
したがって、コスパ最強はShoestripes Rice Cream が頭ひとつ抜けているといのが個人の見解だ。
主観の評価(伸び・匂い)
上記の検証項目に加えて、下記の項目も確認した。
しかし、これらはあくまで個人の感覚に依存することも大きいので、参考程度にご確認いただきたい。
- 伸び
- 匂い
伸びの良さ
伸びの良さは適量のクリームを手に取って塗布したときの感覚で検討。
5段階で伸びの良さを評価した。
クリーム名 | 伸びの良さ(5が最高) |
---|---|
Shoestripes Rice Cream | 5 |
M.MOWBRAY デリケートクリーム | 4 |
SAPHIR Noir Nappa | 4 |
BriftH THE CREAM | 4 |
Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス | 4 |
SAPHIR ビーズワックスファインクリーム | 3 |
Boot Black シュークリーム | 3 |
Boot Black アーティストパレット | 2 |
SAPHIR Noir CREME1925 | 2 |
Tapir レーダーフレーゲクリーム | 1 |
改めてこれらのクリーム触ってみると、水分量の多く、テクスチャーが液体に近いものほど伸びが良いように感じる。
最も伸びの良かったのはコスパでもトップであった Shoestripes Rice Creamになるが、こちらはほぼ液体のような形状だ。
逆に伸びの悪かった Tapir レーダーフレーゲクリーム。
これまで2本購入した経験があるが、どちらも伸びない。
ここの製品コンセプトには、天然素材へのこだわりが強くある。
そのせいなのか、有機溶剤などが含まれていない。
靴にとって少しでも悪影響をもたらす成分を使いたくないという方には良いかもしれないが、いかんせん伸びにくく使いにくさがある。
匂い
良い匂い、くさいというのは個人の感覚に大きく左右される。
ここでの匂いの評価は、強いものから順に並べると以下のようになった。
クリーム名 |
---|
Boot Black シュークリーム |
SAPHIR Noir CREME1925 |
SAPHIR ビーズワックスファインクリーム |
SAPHIR Noir Nappa |
Tapir レーダーフレーゲクリーム |
Boot Black アーティストパレット |
Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス |
M.MOWBRAY デリケートクリーム |
BriftH THE CREAM |
Shoestripes Rice Cream |
Boot Black シュークリームは、鉱物系のきつめの香り。
また、SAPHIR、SAPHIR Noir 製品もいずれも他のクリームと比べると匂いが強い。
他の靴クリームは、普段靴磨きをする上で匂いが気になることはない。
本検証での穴
ここまでの検証で各クリームの特徴を見てきたが、いくつか注意点がある。
- 各クリームの使用開始時期が異なる
- 色が異なる
- 厚く塗っている
各クリームの使用開始時期が異なる
今回使用しているクリームはいずれも私個人で所有しているものだ。
いずれも使い途中のものになるので、新品どうしを比べたものではない。
1年以上使用しているものもあるので、少し硬くなって伸びが悪くなっていることも想定される。
色が異なる
詳しいメーカー事情までは存じ上げないが、今回比較したクリームは色が異なるもの混ざっている。
色を揃えた方がよりフラットな見方になるが、同じ色のクリームをそんなにたくさん持っていない。
厚く塗っている
特に耐水性の検証になるが、クリームを塗った上に水を垂らす方法を用いた。
この際のクリーム塗布は、普段靴磨きに使用するよりもかなり厚く塗っている。
実際に靴磨きをする時と同じ薄さで塗布した場合には、耐水性は落ちる可能性が否定できない。
以上の点が本検証の注意点。
しかし、それでも各クリームの特徴は掴むことができた。
最後は、検証結果を反映した用途別のおすすめを紹介していく。
【まとめ】用途別おすすめクリーム
今回の検証結果から、匂い以外の項目をランク付するとこのようになった。
耐水性 | コスパ | 伸び |
---|---|---|
SAPHIR Noir CREME1925 | Shoestripes Rice Cream | Shoestripes Rice Cream |
Boot Black アーティストパレット | M.MOWBRAY デリケートクリーム | M.MOWBRAY デリケートクリーム |
SAPHIR ビーズワックスファインクリーム | Boot Black シュークリーム | SAPHIR Noir Nappa |
Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス | SAPHIR ビーズワックスファインクリーム | BriftH THE CREAM |
Shoestripes Rice Cream | Tapir レーダーフレーゲクリーム | Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックス |
※耐水性は1位が3クリーム
耐水性の検証からも分かるように、デリケートクリームには水を止める効果はほぼない。
伸びもよいクリームだが、革靴に使用する場合にはライニング(革靴の内側の革)や耐水性の高いクリームと合わせていくのが良いだろう。
コスパも伸びも良かったのが Shoestripes Rice Cream 。
天然成分の米ぬかオイルを使用しており、靴にも優しいようだ。
このクリーム、実は光沢もかなり出るので一度試してみるのはいかがだろうか?
意外だった言ったら失礼かもしれないが、Collonil 1909 シュプリームクリーム デラックスも優れたクリームであることが分かった。
テクスチャーはかなり水分が多く柔らかく、伸びは申し分ない。
加えて、耐水性非常に優れていることが分かった。
耐水性の上位3クリームは全く水を通さないことは利点であるが、革に対して膜を貼るというイメージ。
一方で、このクリームはあくまで自然な仕上がりなのに耐水性も匹敵するほどなのだ。
展開されている色の少なさや値段がややネックであるが、機能面は非常に優れている。
その他、油性クリームは安定の耐水性を持っており、今回は検証していないが光沢や補色という観点では随一だろう。
そして、BriftH THE CREAM。
こちらはRice Creamに次ぐ伸びの良さがあり、伸びが良い上にスーッと入っていくので使いやすい。
自然な光沢上にクリーナーでも簡単に落ちるので使い勝手が良い。
最後に定番中の定番であるBoot Black シュークリーム、SAPHIR ビーズワックスファインクリーム。
初めて手にとったクリームがこれという方もいらっしゃるのではないだろうか?
正直にいうと、このクリームは似たもの同士であまり違いがないと思っていた。
しかし、耐水性やコスパ、匂いまでかなり違いがある結果となった。
終わりに
今回は靴クリームの徹底検証として、様々な項目の検証を行った。
ご自身にあったクリームを選ぶ際に、参考になれば幸いである。
しかし、何より大事なのはどのクリームでも良いので定期的にケアをすること。
良い靴や良い道具を揃えていても、ケアされていなければ劣化の一途を辿るだろう。
お気に入りのクリームを見つけて、より一層靴磨きを楽しめれば最高だろう。
コメント