革の取り扱い方
皮革ハンドブックでは革に関する情報を多面的に知ることができる。
この記事は私が皮革ハンドブックを読んでいて、面白いと思ったところを取り上げている。
今回は2回目となるが、革製品の消費性能といった項目中にあった「革と有機溶剤」について触れていく。
本書では革に対する有機溶剤の記載というのは少ない。
しかし、靴磨きが好きな人ならご存知の通り、多くのシューケア用品には有機溶剤が含有されているのだ。
私もこれを読むまでは漠然とした有機溶剤=革に悪いというイメージであった。
しかし、なぜ悪いのか?なぜシューケア用品に含有するのか?
といったところは本書を読んで学んだことの1つだ。
今回は有機溶剤と革やシューケア用品の関連を中心に紹介していく。
革の油分を奪い去る有機溶剤
有機溶剤とは一般的にモノを溶かす性質を持つ有機化合物の総称。
そんな有機溶剤が革に与える影響は、油分を取り除いて硬化と薄色するリスクがある。
革は製造の段階で特有の柔軟性を付与するために加脂と言う工程があり、これによって革は柔らかくなり色調は濃くなる。
イメージとしては硬く乾燥した地面に油をたらすと柔らかくなって染みて濃くなるようなものだろう。
そして、有機溶剤に革を浸透させると加脂剤の一部が溶出してしまうのだ。
こうなってしまうと、油分によって保たれていた柔軟性や色味が失われてしまう。
このように有機溶剤は革にとって質を悪化させるのだ。
しかし、この有機溶剤というのはクリーナーからクリーム、ワックスまで一部のものを除いてほとんどのシューケア用品に含まれている。
なぜシューケア用品に含有するのか?
これには大きく2つの理由があると考える。
② 汚れを落とすため
① シューケア用品の形状維持
有機溶剤の役割の1つとしては、常温で固形である油脂やロウを溶かして混ぜ合わせること。
固形のままでは使用できない油脂やロウなどを使える形にする役割がある。
おそらく有機溶剤の含量によって、粘度調整などもされているのだろう。
② 汚れを落とすため
クリーナーなどに含まれる有機溶剤は前回に塗ったワックスやクリームを取り除くことを目的に含有されていることが考えられる。
油分を取り除く性質というのは、ここで活きてくるだろう。
クリーナーを過剰に使ったり、強く擦りすぎたりしてはいけないというのは有機溶剤が革本来の油分を抜きすぎてしまうことから言われていることが推察される。
また、余談になるが革製品のドライクリーニングも同様の理由で注意が必要だと本書には記載されている。
というのもドライクリーニングでは有機溶剤を使用して汚れを落としている。
革靴をドライクリーニングに出すことは少ないが、鞄などを出される際には気をつける必要があるだろう。
シューケア用品への配合量は少ない?
ここまで有機溶剤が革にもたらすデメリットと、その特性上シューケア用品に配合する必要があることを述べた。
しかし、普段靴磨きをしている中で、「油分が抜けて色が抜けて硬くなってる!」と感じたことはあるだろうか?
私の経験からするとほとんどない。
強いて言えば、クリーナー使用後にやや色味が薄くなってるように感じることがあるくらいだ。
クリームに含まれる有機溶剤
クリームには油脂、ロウ、有機溶剤などがメインに含まれている。
塗布している段階で油脂は革内部へ浸透し、ロウは革の表面に残ってツヤを出す。
そして、有機溶剤は揮発していくのだ。
クリームとしての形状を維持するために含有されているものならば、制作しているメーカーも有機溶剤の含有量は最小限にしているだろう。
ちなみに多くの乳化性クリームに含まれているのに、下記の2つには有機溶剤が含有されていなかった。
・ Tapir (タピール) レーダーフレーゲクリーム
クリーナーで心配な人に
一般的にクリーナーには有機溶剤が含有されている。
汚れを落とすということが使用目的であるため、その含有量はクリームよりも多いはずだ。
そうなると強いクリーナーを使うのに少し気が引けるという想いもある。
特に色の薄い靴やデリケートな革では慎重になるだろう。
そこで有機溶剤に油分を加えたタイプや有機溶剤フリーのクリーナーについても紹介しておく。
・ Boot Black ツーフェイスレザーローション(油分非含有)
有機溶剤(イソパラフィン系炭化水素)、ノニオン系界面活性剤、エタノール、水
・Saphir Noir レザーバームローション(油分含有クリーナー)
ろう、油脂、有機溶剤
・Tapir(タピール)レーダーオイル(有機溶剤フリー)
ひまし油、なたね油、バルサムテレピンオイル、オレンジオイル、酢
ちなみに本書では油分含有の洗浄剤は洗浄効果は落ちると記載されている。
個人的な使用感としては、油分非含有のクリーナーは汚れを落として表面をツルッとさせる。
しっかりと落として、革本来のすっぴんのような表面になっていると感じる。
一方で、油分含有のものはテクスチャーが乳化性クリームに非常に近いので、クリームを塗っているような感覚。
塗布した後にはクリームを塗った後と同じような状態なので、以前使ったクリームなどが落ち切っているのかが判断できないという点があった。
本書に従い、洗浄力が優しいのであれば油性クリームやワックスを使った時には油分非含有のクリーナーを使用することが望ましいだろう。
また、有機溶剤フリーのTapir レーダーオイルは汚れを落としながら油分補給ができるタイプであるが、洗浄力は優し目に感じる。
しかし、さらっとしたテクスチャーで油分補給もしやすいので、クリーナーというよりは油分補給を目的としたプレメンテナンスなどで使用されることが多い。
私もクリーナーは使い分けているが、ダントツで使用量が多いのはBoot Black ツーフェイスレザーローションだろう。
しっかり汚れを落として、その後のクリームで油分補給することを心掛けている。
有機溶剤をうまく使う
今回は靴磨きで身近な成分の有機溶剤について紹介した。
普段なんとなく使用しているシューケア用品も過剰な使用は革靴によくないというのは納得。
個人的にはワックスを落とす時にハイシャインクリーナー → 水溶性クリーナーという流れが最も有機溶剤が革に触れている時ではないかと思う。
現に過去に色が薄くなった靴は爪先だけその現象が起こった。
ただし、塗ったクリームをずっとそのままにしておけば油分は酸化して靴に悪影響を残しかねない。
定期的にある程度の強さのクリーナーでしっかりと汚れを落としてあげることが必要だろう。
今後もこのシリーズでは本書を読み進めて面白い内容があれば続けていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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